ソウルには韓国ドラマのロケ地が多い。そこを訪ねる観光客は少なくない。ソウル市もロケ地の一部を「SOUL SPOT」と命名し、そこにサインボードを設置した。そのQRコードを読みとると、ドラマの有名なシーンが再生され、解説を聴くことができる。
■ソウル市内の韓流ロケ地を実際に訪ねた感想は?
知人が家族でソウルを訪ねたときの話を聞いた。彼は60歳代のシニアだ。奥さんと娘さんが韓国ドラマのファンで、いくつかのSOUL SPOTを訪ねたという。
知人は若い頃、ソウルを訪ねていた。30年以上の年月がたって訪ねたソウルはずいぶん様変わりしていたという。
「ビルが増えて、歩道がきれいになった。そう、昔のソウルは歩道の敷石がガタガタでよく突っかかったんです。当時に比べればいまは水面のよう。駅は車椅子に配慮した通路ができている。民度が数段あがりましたね」
しかし、一緒に訪ねた奥さんと娘さんは初ソウル。逆向きの感想を口にしたという。
「ソウルって意外にアジアですね」
裏通りに入ると、古びた商店が並び、老人がぼんやり店番をしている。夜になるとシートに囲まれた屋台が並び、近くには野良猫が集まっている……。
旅をして、印象が残るのは落差がある街だと思う。思っていた以上に快適だったり、見聞きしていたイメージより汚かったり……。
はじめてロサンゼルスを訪ねたときがそうだった。ロングビーチやサンタモニカの映像を観ていた僕が最初に訪ねたのはダウンタウンだった。グレイハウンドバスに乗ろうとしていたのだ。知人が近くまで送ってくれたが、そこからバスディーポと呼ばれるバスターミナルまで歩いた。10分ほどだったが、歩道はホームレスで埋まっていた。彼らは僕に近づき、「小銭をくれ」と手を押しつけてきた。明るい太陽に照らされた西海岸のイメージは一気に吹き飛んだ。
その伝でいえば、「ソウルって意外にアジアですね」といった奥さんと娘さんがイメージしていたソウルは、韓国ドラマに裏打ちされていた気がする。
SOUL SPOTのひとつ、清渓川にかかる世運橋を訪ねた。ソン・ジュンギとチョン・ヨビンが出演したNetflixドラマ『ヴィンチェンツォ』のロケ地である。SOUL SPOTのサインボードがみつからず、周辺の商店街をかなり歩いた。電気製品の部品を売る店が並んでいた。しかし、客はほとんどいない。部品店だから店は地味で、街全体がくすんでいる。
帰国して『ヴィンチェンツォ』を観た。社会派ドラマの要素をもっていたから、街をことさら美しく描いていたわけではなかったが、僕が目にした世運橋周辺の商店街よりは、はるかに活気があった。