■手洗い場でも阿鼻叫喚「手洗わせる気ないやろ」
利用者を困惑させるのは、手洗い場も同様だ。水の出が異常に悪く、《手洗わせる気ないやろこれw》という声もあるほか、前述の「トイレ1」では、水を受ける部分が“板”状になっており、手を洗った水はそのまま下の溝に流れ落ちる仕組み。二億円トイレ(「トイレ5」)では、公園の水道よろしく、ダイレクトに地面が水を受ける設計になっている。
「水を受けるボウルがないので当然足元は濡れますし、洗面台もないので手荷物やお土産の袋をどこかに置くこともできない。荷物を片手ずつ持ち替えて洗う、首から提げる、口でくわえるなど、皆さん大変そうでした」(前出の森山氏)
森山氏によれば、そんなふうに何から何まで使いづらいデザイナーズトイレ周辺では「なんで普通のトイレがないんだよ!」と憤る声も聞かれたという。
「“デザイン性”を重視する、というふんわりした発注が、こういった結果を生んでいるのではと思いますね。トイレは利用者の使い勝手がよくてナンボなのに、トイレが主役にされている。いっそ万博側が、デザイナーズトイレはあくまでもデザインを楽しむ“パビリオン”であって、その使い勝手は悪いということをアナウンスしてあげないと設計者が可哀相です」(同)
早くも使い勝手に疑問が噴出している万博のデザイナーズトイレ。今後、改善されることはあるのだろうか――。
森山高至(もりやま・たかし)
1965年岡山県生まれ。一級建築士、建築エコノミスト。
早稲田大学理工学部卒業後、設計事務所を経て、同大学政治経済学部大学院修了。
地方自治体主導の街づくりや公共施設のコンサルティングを行いながら、ジャーナリストとしても活躍。
ポップカルチャーの視点を交えて建築を分かりやすく解説することを得意とし、著書に『マンガ建築考』(技術評論社)、『もし女子高生が家を設計したら』(マンガ原案、エクスナレッジ)、『費用・技術から読みとく巨大建造物の世界史』(監修、実業之日本社)など。新刊『ファスト化する日本建築』(扶桑社新書)が4月24日発売。