今年のソウルは、日本同様に暑い。観測史上初といったニュースが、ソウルでも流れている。韓国には暑い夏を乗り切るために、体にいいものを食べる日といった発想がある。
その日も朝から暑かった。知人と昼食になにを食べようか……という会話のなかで、体にいいものを食べる日という習慣の話に発展していった。
■酷暑が続くソウル、体にいい食べ物は?
「それだったら黒ヤギ(フンヨムソ)料理か参鶏湯(サムゲタン)でしょ」
と韓国人の知人はいった。とくに黒ヤギ料理は、夏バテに効くという。それを食べた日の翌日は、体調がいいという。
「ヤギですか……」
僕はヤギ料理があまり得意ではない。あの獣臭が苦手なのだ。
その洗礼はネパールで受けた。カトマンズの下町。雑踏に迷い込むと、どこからともなく、獣臭が漂ってくる。その方向に視線を向けると、そこにヤギの頭がどんと置かれている。ヤギ肉料理店の看板が頭だった。そこから臭いが細い路地に流れ出てくるのだ。
イスラム圏を訪ねることは多いから、ヒツジ肉はよく食べる。好きというわけではないが、ヒツジしかないことがあるから避けようがない。ヒツジ肉もかすかに獣臭がする。新鮮な肉はそれほどでもないが、店によっては鼻につくことがある。その獣臭を10倍、いや30倍ぐらいにしたものがヤギ肉の臭いなのだ。
安宿で一緒になったオーストラリア人と昼食をとることになった。彼は細い路地を足早に進んだ。
「この店のヤギ肉カレーが安くてうまい」
そういった。
「ヤギ肉……」
しかしそのオーストラリア人は、僕の表情など意に介せず、ヤギ肉のカレーを注文してしまった。カレーの香辛料で、獣臭は弱まってはいたが、やはり臭い。街全体にヤギの臭いが漂っているからかもしれなかったが。なんとか食べ終えたが、「二度と食べないだろうなぁ」とは思った。
沖縄によく行くから、そこでもヤギ肉の洗礼を受けている。沖縄では祭りや祝いの席でヤギ汁がふるまわれることがときどきある。
あれは宮古島だったろうか。祭りの会場に行くと、発泡スチロールの器によそわれたヤギ汁をほいッと手渡された。上にはヨモギが載せられている。臭いを和らげるのかもしれないが、ヤギの臭いはヨモギなどでは相殺されない。
周りの人たちは平気な顔で食べている。女子高生も涼しい顔で箸を運んでいる。
「ヤギ汁は苦手で……」
とは口にできないような雰囲気だった。器に顔を近づけると、かなり臭う。カトマンズのヤギカレーより臭いはきつい。近くにいたおじさんが缶ビールをくれた。
「昔は村対抗運動会の賞品はヤギだったさー」
などと笑った。そのときもなんとか食べたが、お替わりを盛られるのはないかとひやひやしていた。
そのヤギ料理をソウルで……。遠慮しようかと思った。
「ヤギ料理は獣臭いでしょ」
そういうと韓国人の知人は不思議そうな顔をした。
「臭い? ヤギ料理は臭くないですよ」