コ・アソン主演新作『ケナは韓国が嫌いで』が話題のチャン・ゴンジェ監督、初長編作『十八才』が描く青春の痛みときらめき【韓流談義fromソウル】

チョン・ウンスク チョン・ウンスク
2025.02.07 02:00

「♪飲んでも歌っても踊っても心は晴れない もがいても逆風ばかり 今こそ旅立とう東の海へ 恐れず鯨を仕留めよう」

 1970~80年代、軍事独裁政権のときの禁止歌謡「コレサニャン(鯨狩り)」の歌詞の意訳だ。当時の若者たちの閉塞感や、鯨に象徴される「民主化」「自由」を夢見る気持ちを重ねたといわれるこの歌の影響で、私たち韓国人は東海岸に特別な憧憬の念をもっている。

 『十八才』の二人の旅はあまりにも無計画で、帰りは財布が空になり、ターミナルで見知らぬ人にバス代を借りる始末。そんなみじめなシーンにも、どこか清々しさを感じさせる。これぞ青春映画というべきだろう。

『十八才』の主人公テフンとミジョンが旅した東海岸 配給 A PEOPLE CINEMA/ショコラ (C)mocushura

■道にバラまかれた中華料理店のプラスチックの皿の音

『十八才』の主人公テフンは、中華料理店で出前のバイトをする。韓国で中華料理店の出前といえば、バイクの免許さえあれば誰でもできる仕事、学歴や特別な資格を持たない者がやる仕事。そんなイメージが強い。

 往年の名作映画『チルスとマンス』(1988年)には、冒頭、看板描きのマンス(アン・ソンギ)が、知り合ったばかりのチルス(パク・チュンフン)と屋台で酒を飲むシーンがある。そこでチルスの無能ぶりを見抜いたマンスがこう言う。

「中華屋でチャジャンミョンの出前でもしろ」

 職業差別もはなはだしいのだが、多くの韓国人の認識である。テフンはオートバイで空き皿を回収して店に戻る途中、歩行者と接触時事故を起こしてしまう。アスファルトに空き皿がぶちまけられる。陶器の皿なら大きな音を立てて割れるのだろうが、プラスチック製の皿は安っぽい乾いた音がするだけ。なんとももの悲しいが、これぞ空虚な青春のリアリティだ。

●公開情報

特集上映「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」

3月7日(金)東京・ユーロスペースほか全国順次公開

上映作品:『十八才』『眠れぬ夜』『ひと夏のファンタジア』『5時から7時までのジュヒ』

配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio

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