■今回のミセスのライブ会場とフジロックの会場は制限が全く異なる
ライブによって生じる“音漏れ”対策は音楽業界では常識であり、まして今回は野外ライブ。それなのに、なぜこのような事態となってしまったのか――多くのアーティストのライブの現場を知るレコード会社関係者は、こう解説する。
「まず、今回の山下ふ頭のライブ会場は普段はライブに使われていない特設ステージであり、会場は広く、ライブは大規模なものでしたよね。しかも、山下ふ頭はみなとみらいや横浜中華街から徒歩圏内。これらが大きな原因となったと見られていますね」
今回の『山下ふ頭特設会場』は、再開発が進む山下ふ頭の、もとは倉庫が立ち並ぶ物流ターミナルだった更地を活用したもの。過去にも音楽イベントが開かれたことはあったが、5万人規模のライブは初めてだった。
「ミセスの公式の謝罪文に“事前にシミュレーションを重ねておりました”とありましたが、立地を考えると本番と同じような音を出しての、リアルな実地調査はなかなかできないですよね。
それに、よくライブで使われる“普通の会場”なら、屋外であっても過去のデータはある。風向きによって、どの方面に、どれだけのデシベル(音の大きさを表す単位)が発生するかなどを把握できるのですが、今回は、めったに使われない山下ふ頭で、過去に例がない規模でのライブだった。データが足りていなかったんだと思われます」(前同)
シミュレーションで、音の実際の聴こえ方を予想するのは困難で、当日の気温が高すぎたため会場の音響システムが予定通りに機能しなかったのでは、といった指摘もされているが、
「実際、音は風で流れてしまう。聞きづらくなったり、逆に遠くまで届いてしまうことがあるんです。今回は5万人規模のライブで、会場にいる人たち全員に音を届かせるためには、どうしても大音量にせざるを得ないところもあったでしょう。
ただ、それを山の中ならともかく、繁華街も近い場所でやれば、やはり騒音になりかねないですよね。ちなみに、ミセスと同日にやっていた『フジロックフェスティバル』では、音量制限はありません」(同)
フジロックは、毎年夏に新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催されている。周辺に民家がなく、会場も私有地のため、大音量でのライブが行なえるのだ。
「今年は7月25〜27日に行なわれたフジロックですが、同イベントは特例中の特例なんです。
音楽業界の人たちは今、コンサートの音漏れにはかなり注意を払っています。屋内の会場で行なわれるライブでも、本番中にスタッフが会場外で音を計測して、規定値をオーバーしていないか確認しながら進めていますからね」(同)
多くのアーティストがライブを行なっている東京ドームでも、近隣住民からクレームが来ることもあるという。
「今回のライブの関係各所が連名で、翌日に謝罪文を出したことからも伝わってきますが、業界は音量問題に気を配っています。ミセスの運営サイドが騒音を考慮していなかった、ということは決してないでしょうが、しっかりとした事前の調査が行なえなかったことで、想定外の大きな騒動に発展してしまったのではないかと……。
シミュレーションは行なっていても、トラブルを招いて周囲に迷惑をかけてしまったわけで、批判されるのは仕方がない。ただ、チャレンジングなことだったのは理解してもらえたらなと、同じ業界にいる者としては思います」(同)
めでたい10周年ライブとなるはずだったミセスだが——少々残念な事態が生じてしまった。